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FEATURE

5月 9, 2024

より良い未来のためにファッションができること

SPECIAL



土川 輝氏(経済産業省 製造産業局 生活製品課 係長)
× 竹山 賢(エストネーション サスティナビリティ開発推進室 室長兼ディレクター)

とかく華やかな部分がフォーカスされがちなファッションの世界。けれど持続可能性において大きな課題があることは、メディアでの報道や環境配慮への意識の高い人々の行動によっても、数年前から問題提起されるようになりました。そこには根付いてしまった経済、社会の慣習や仕組みがあり、一朝一夕には変えられない状況です。素敵な服を身にまとうことで得られる一瞬の高揚感とは対照的に、正しく理解するまでに時間がかかる話でもありますが、ファッションを提供する私たち、また楽しんでいただく皆様も、世の中の現状を理解しようと努め、小さくともそれぞれが自分ゴトとしてアクションを起こし、続けていくことが大切だと考えます。

2022年からはエストネーションでもサスティナブルプロジェクト「One Small for Smile」を本格始動、同年7月からはサスティナビリティ開発推進室を設置し、ファッション産業の抱える廃棄などの課題解決に向けて歩みを進めています。3本柱は「廃棄物の資源化」「資源循環の構築」「温室効果ガス排出量の削減」。具体的な数値達成目標を掲げ、2030年までのロードマップを策定しています。

皆様とともに、より良い世界を実現していく第一歩は“知る”ことから。この問題について、日本は国としてどのように考えているのでしょうか。そこでエストネーション サスティナビリティ開発推進室 室長兼ディレクターの竹山 賢(たけやま・さとし)がホストとなり、「繊維、アパレル産業の現状と資源循環システムの構築に向けて」というテーマで、この問題に取り組んでいらっしゃる経済産業省の土川 輝(つちかわ・あきら)氏にお話を伺いました。

経済産業省が主導 循環する産業システムとは?



竹山:まず、土川さんが在籍されている経済産業省の製造産業局 生活製品課はどのような仕事を行う部署でしょうか。

土川 輝さん(以下土川):経済産業省は読んで字のごとく、経済と産業を発展させることで国富の増大に寄与する行政機関です。私の部署、製造産業局 生活製品課では、主に繊維・アパレル産業や住宅設備、建材産業等、生活に関係する製造業や卸売をどのように振興させていくかを考えています。繊維産業を扱う部署ですので、繊維産業におけるサステナビリティ推進に関しても取り組んでいます。

竹山:経済産業省の主導で、ファッションの未来を考える研究会や審議会も行われています。そのひとつが、土川さんが事務局を務められた「繊維製品における資源循環システム検討会」。繊維製品におけるシステムを構築して、売って終わりの産業構造を、循環する産業システムへと転換させるために議論されていました。

土川:この検討会は昨年1月~9月まで、有識者とともに7回にわたり行いました。欧州では、人権デュー・ディリジェンスや環境配慮等、サステナビリティに関する取り組みが進んでいます。一方、日本では衣料品のリユース、リサイクルは家庭から排出される量の35%にとどまっています。今後、繊維関連企業が、衣類品の需要が見込まれる海外市場においても競争力を維持、強化していくために、サステナビリティの取り組みを加速していくことが必要であることから、この検討会を設置しました。

竹山:この模様はYouTubeの「経済産業省LIVE配信チャンネル」や、経済産業省のウェブサイトでもアジェンダを公開されていました。検討会ではどのようなことが見えてきたのでしょうか。

ファッションを取り巻く状況は、30年でここまで変わった!


出典:経済産業省「繊維産業の現状と政策について」

土川:繊維産業の現状を市場規模の推移で見ていくと、最も大きかったのが1990年。そこから右肩下がりとなり、コロナ禍でかなり減って、現在は横ばいとなっています。生産量もこれに比例して、右肩下がりとなっています。

竹山:この現状でありながら、アパレルの供給点数は増加しています。1990年には約20億点でしたが、2022年にはその1.8倍以上。個人輸入のEコマースを加えたら、もっと多そうです。

土川:そうなのです。市場規模が下がっているのに、服の点数は増えているという奇妙な状況が生まれています。そこから見えてくるのはアパレルの輸入浸透率(国内供給量に占める輸入品の比率)の増加。現在日本の市場に供給される衣料品のうち、数量ベースで約98.5%は海外でつくられたものなのです。

竹山:思った以上の数字です。

土川:ただ商品数では98.5%なのですが、金額でみると78%ほど。ここから推測されるのは、安価な輸入品が日本の市場における衣料品の価格を押し下げたのではないか、ということです。安価な輸入品が市場におけるプレゼンスを高めたために、供給点数はどんどん上がり、逆に国内製品の市場規模は小さくなってしまったのではないか、ということが考えられます。

竹山:わかりやすい事例があればお聞かせください。

土川:特に婦人服はその傾向が顕著です。東京都区部での小売価格を例に見てみますと、セーター、ブラウス、ワンピースは、1991年時点での価格を100とした場合、2022年は40%程度まで下がっている状況です。

竹山:様変わりしていることが、よくわかる数値です。では日本からの輸出はどうなのでしょう。

日本の強みはテキスタイル

土川:繊維製品の輸出の割合を見ると、日本の強みがどこにあるのか見えてきます。いちばん多くの割合を占めているのはテキスタイル。反面、完成品は日本からの輸出の割合は小さくなっています。このことを踏まえ、日本の強みである素晴らしいテキスタイルの輸出をどうやって増やしていくかが、政策として重要と考えています。また、そのテキスタイルを使った完成品などを、どのように海外のマーケットに売り込んでいくかということも政策の柱です。

竹山:日本の繊維産業ならではの特徴はありますか。

土川:各工程が分業構造であることがあげられます。原糸メーカー、製織・ニット、染色加工、縫製をそれぞれ別の会社で行っている点。そしてでき上がった完成品をアパレルや商社が購入し、消費者に販売している点が、日本の繊維産業の特徴と思われます。


出典:経済産業省「繊維産業の現状と政策について」

竹山:確かにサプライチェーンは多くの企業により成り立っています。

土川:ただし、最近は染色、加工や縫製をアジアの他国で行っている場合も多く、アパレルと国内の繊維産業の結びつきが希薄になりつつあります。

竹山:大きな転換期を迎えているともいえる今、ひとつの商品が完成するまでに多くの会社が関わっているということは、これまでは強みであったと思うのですが、トレーサビリティの観点では難しい面が出てきそうです。繊維産業の現状を知ると、いかに持続的発展させていくか、サステナビリティの重要性を痛感しています。

視野を海外へ 進出にサステナビリティは必須



土川:今後、日本では人口減少に伴い、市場も縮小していくことが考えられます。繊維産業においても、テキスタイルをはじめとして海外からの需要を一層創出していかないといけません。

竹山:今以上に海外の動向にも目を向ける必要がありますね。

土川:そうですね。海外に目を向けて商品を展開するうえで、世界の潮流であるサステナビリティの動きはおろそかにはできません。繊維産業はエネルギーや水の使用が非常に多く、石油産業につぐ環境汚染産業ともいわれており、欧州では、そうした繊維産業を変えていこうという動きが強くなっています。ここから世界に向けた商売を考えたときに、サステナビリティは不可欠です。

竹山:サステナビリティはやらなくてはならない側面があると同時に、国際社会のなかで適応できる力をつけられるポジティブな要素があることを覚えておきたいと思います。製品をつくるにあたって意識することはもちろんですが、日本の資源循環の動向も気になります。

目指すべきは、繊維から繊維を生み出す循環


出典:環境省「令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査」

土川:日本では年間約73万トンの衣類が使用後に手放され、そのうち35%は何らかの形で利用されていますが、65%は廃棄されている現状です。この廃棄部分をリユースやリサイクルを行うことで削減していく、それが産業として求められていくのではないかと考えています。

竹山:例えば、どのような方法が考えられるでしょうか。

土川:廃棄されている65%の衣類を、資源として再生させることを考えています。これまで繊維製品のリサイクルとして、皆さんがよく目にしているのはペットボトル由来の再生ポリエステルだと思います。しかし現在、使用済みのペットボトルを新たなペットボトルとして再生させる「ボトルtoボトルリサイクル」が増えてきています。結果、繊維原料として再生されるペットボトルが少なくなり始めているのです。

竹山:他業種の資源循環の推進によって、繊維業界も影響を受けるわけですね。

土川:そうです。飲料業界がペットボトルtoペットボトルの水平リサイクルを推進しているので、リサイクル繊維の原料がなくなってきています。他方で、国内では大量の衣類が使用後に捨てられている現状があります。だからこそ廃棄されている衣類を資源化し、繊維として再生させる「繊維to繊維リサイクル」が今重要なのです。

竹山:さきほどの図にある48.5万トンの廃棄衣類から繊維to繊維を目指すわけですね。では海外の資源循環の動向はどのようになっているのでしょうか。

ヨーロッパでは売れ残り服を廃棄できない?!

土川:欧州では今、2022年3月に欧州委員会が公表した「持続可能な循環型繊維戦略」に基づいた政策が動き始めています。その一つが未使用繊維製品の廃棄禁止を含む「EUエコデザイン規則」案で、2023年12月に政治的合意に至りました。同規則案が採択された場合、施行2年後から、売れ残った衣料品、衣料用付属品、履物を対象に未使用製品の廃棄が禁止されます。

竹山:欧州では衣料品の廃棄を禁止するという報道も目にしておりましたが、本腰を入れていますね。

土川:もうひとつの大きな柱は、情報提供の強化です。気候変動への取り組みの具体的開示を推奨する国際的な組織「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の報告書にも記載されているように、投資家に向けた情報開示も進んでいます。日本でも2023年10月、東証が上場企業向けにサステナビリティに関する情報開示の指針を示していました。このように、情報開示については、欧州では枠組みが確立されつつあります。

竹山:そういった取り組みは、企業レベルではなく、私たちの日常でも起こるのでしょうか。

土川:フランスでは、2023年1月から、アパレルが販売する商品について、その組成、リサイクル素材の使用の有無、リサイクルの可否や、トレーサビリティといった情報の開示が義務付けられています。フランスのみならず、EUにおいても、企業のサステナブル報告指令(CSRD)が2024年1月に発効し、環境と社会的側面、企業のガバナンスといったCSR情報の開示の在り方について、ルールメイキングが進んでいます。

竹山:日本での商売だから欧州の動向は関係ないのでは? という他人事ではありませんね。

土川:情報開示は、国内市場でしか商売をしていないから、上場していないから、という理由で回避できうるものではありません。例えば、CO2排出量の開示を例にとりますと、綿を生産するとき、生地をつくるとき、どのくらいのCO2を排出しているか。織るとき、またそれらを輸送するときのトラックは? それを総括してこの製品のCO2排出量はどうなのか。生産に関わる企業すべてに開示が求められるので、もし日本企業がそれに応じられない場合、取引ができない等の不利益を被る可能性が考えられます。

竹山:ここで、日本の特徴である分業構造においては、難しい場面が出てくる可能性があるわけですね。このほか表現にも厳密さが求められていくのだとか。

サステナブル表現に、ごまかしは効かない



土川:いわゆる「グリーンウォッシュ」の問題です。環境問題への意識が高まるなか、逆に環境配慮自体がマーケティング上の「商売道具」になっている場合があります。実際は行われていないのに、あたかも環境に配慮したかのような表現を行うことは「グリーンウォッシュ」と呼ばれています。グリーンウォッシュは近年世界的に問題視されており、行政機関による摘発や訴訟に発展している例もあります。

竹山:「この製品はリサイクルされたプラスチックを使用して製造されています」というような表記を見かけます。実際はパーツのみに使用している場合、あたかも全体にリサイクル素材を使っているかのような誤解を招くため、こういう曖昧な表現は禁止される恐れがあるということですね。

土川:そうですね。気をつけたいのは、不確実で反証可能性のない情報に基づいて「環境にやさしい」「サステナブル」と表示してしまうとグリーンウォッシュと捉えられかねないということです。確かにある部分では当てはまっても、全体を見渡すとそうとは言い切れない場合もあります。環境主張を行う場合、誰が見ても客観的に正しいと反証できないといけません。

竹山:環境への取り組みを、商品説明、販売促進などの表現においては配慮していかなくてはなりませんね。

土川:そうですね。欧州では、今年2月に採択された不公正取引方法指令(UCPD)の改正案に基づき、今後2年の間に国内法が規定され、グリーンウォッシュを禁止する規定が整備されます。欧州と日本では環境への意識に乖離があるので、何気ない表現がグリーンウォッシュにならないよう、表現にはかなり注意が必要だと思っています。

鍵は価値ある商品開発と、参加したくなる衣料品回収


画像:エストネーション大阪店 衣類回収BOX

竹山:繊維リサイクルの取り組みと課題はいかがでしょうか。

土川:消費者が回収に参加したいと思えるような環境づくりが大切です。また集めたはいいけれど、その先はどうしようもできなくなったということでは立ち行かなくなってしまいますので、回収した衣料品がきちんと循環できるような仕組みや出口の整備が必要です。この点、経済産業省では繊維のリサイクル技術の研究開発に力を入れています。繊維はプラスチックなどの他の素材と異なり、綿とポリエステルのように複数の素材が混紡されている場合が多いので、一般にリサイクルが難しいと言われています。我々が現在支援している研究の一つは、そうした複合素材繊維の分離や選別をより効率的に行えるようにすることです。こうした技術が普及すれば、それが繊維to繊維リサイクル推進の足掛かりとなり、廃棄される衣料品について資源としての新たな需要が喚起されます。

竹山:お話を伺って、繊維産業の実情や課題点を深めることができました。

土川:また、経済環境省では「繊維製品の環境配慮設計ガイドライン」を2024年3月に策定し、繊維製品の環境配慮設計の促進をめざしています。今後は、ガイドラインに沿って設計・製造された製品の普及や消費者への啓発を行っていきます。アパレルの皆様も、製品を企画するときにぜひ読んでいただきたいと思います。

竹山:はい、私たちもまず知ることから始めていきたいと思います。消費者に向けた取り組みは考えられていますか?

土川:頑張って環境に配慮した服をつくっても売れなければ意味がないので、消費者にしっかりと価値を理解してもらうことが重要だと考えています。その中で、たとえ環境に対する意識が向上しても、「グリーンウォッシュ」のようなことがあると環境にやさしい製品かどうかどうか不安になってしまうと思います。環境配慮設計ガイドラインなどを活用した規格や認証などが、こうした不安を解決する一つの解になるかもしれないと考えています。

竹山:今後の展望を伺えますでしょうか。


出典:経済産業省「繊維製品における資源循環システム検討会 報告書」

土川:昨年9月までの「繊維製品における資源循環システム検討会」では課題を見つけ、課題解決に向けた方向性を考えるというところまで実施しました。11月からは「繊維産業小委員会」を再開し、今は具体的にどういう政策をやるべきか検討している段階です。繊維産業小委員会は近日中に取りまとめを行う予定で、そこで具体的な政策の方向性を示せればと思います。

竹山:「繊維製品の資源循環システム構築にむけた課題と取組の方向性まとめ」の図は、誰が実行するのかが明記されています。事業者であり、また生活者でもある私たちは、この図をもとに何をやるべきか考えていきたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。



プロフィール

土川 輝氏(経済産業省 製造産業局 生活製品課 係長)
2021年3月 大阪大学大学院法学研究科法学・政治学専攻 修了。
2021年4月 経済産業省 入省。中小企業庁事業環境部財務課 配属。
2022年6月 製造産業局生活製品課 配属。


竹山 賢(エストネーション サスティナビリティ開発推進室 室長兼ディレクター)
1998年3月 成蹊大学法学部法律学科 卒業。
2007年11月 株式会社エストネーション 入社。
2022年8月 販売部を経て、現職。

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