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エグゼクティブの愛する仕事服

しなやかに今を生きるアクティブな女性たちは、
どんな想いでビジネスウエアを選び、
何を着ているのか――
時代を牽引する4名のエグゼクティブにインタビュー。
第一回目は服飾史家・著作家の中野香織さんにお話を伺った。

中野香織

●著作家、服飾史家。イギリス文化、ダンディズム史、ファッション史、英国王室スタイル、ラグジュアリー領域へと研究テーマを広げてきた独立研究者。経産省「ファッションの未来研究会」委員を筆頭に、企業の顧問やアドバイザーを務めながら講演会等も行う。近著に『新・ラグジュアリー 文化が生み出す経済10の講義』(共著、クロスメディア・パブリッシング)、『「イノベーター」で読むアパレル全史』(日本実業出版社)ほか多数。好きなスタイル・アイコンはエリザベス女王。「国民に奉仕するための自身とファッションを貫き通した在り方は私の理想です」。
https://www.kaori-nakano.com/

自分を主張するのではなく、場を意識した服選びを

服飾史家・著作家であり、執筆・講演の他、企業の顧問やアドバイザーなども務める中野香織さん。仕事内容は多岐にわたり、会う人の業種も年齢も様々。彼女にとって、ビジネス服は“コスプレ感覚”で装うものだと言う。

「私が心掛けているのは“場にふさわしい装い”であるということ。“私はこういう人です”と主張するよりも、場の中での自分を意識することを第一に考えています。一般企業とお仕事をするときはブランド無関係のテーラードスーツを着ることもありますが、例えば、バイオテクノロジーを使った繊維に関する講演の時は、その企業の新製品を纏って登壇したり、18世紀のフランスがテーマなら当時の宮廷服を再現した衣裳を着てみたりと、主題にふさわしい服装を選ぶようにしていています。お客様にどれだけその世界を楽しんでいただけるかという、場に対するサービス精神を大切にしながら洋服を選ぶので“コスプレ”になるんです(笑)」。

以前、大学でファッション史の講義をしていた時に、毎回、各時代に合わせたものを何かしら身に着けるようにしていたら、すごく好評だった経験があり、“じゃあ次はこうしてみよう”と考えた結果、今のようなスタイルに行きついたのだそう。

「私の着る服でオーディエンスが喜んでくださるのを見て、“洋服は場の空気を作る力を持っている”ということを実感したのです。皆の半歩先を予想して、“こんな雰囲気に持ってきたい”という意志を装いに反映させると、その場の空気が変わっていくと思います。例えば北欧の女性リーダーたちの、肩の力の抜けた優しい雰囲気の服は、国民の意見を汲み取って次の社会を作っていこうという共感型リーダーシップの現れであり、国民からも支持を得ています。自分がどんなソサエティを作りたいかという目的意識と、そこに自分がどう貢献できるかを考えることが、これからのビジネス服の選び方のヒントになるような気がします」。

今や、高価なもの=ラグジュアリーではない。新時代の価値観でモノを選ぶ知性が必要

ファッションには時代が反映される――それはビジネス服のチョイスでも同じ。

「現在、企業のトップに就いている管理職の女性たちは、強さをフェミニンで和らげて男性社会をサバイブしてきたこともあってか、華やかな仕事服を選ぶ方が多い。対して、若い世代のリーダーは身体の線を拾わないジェンダーレスなスタイルを好んでいます。ビジネスウエアも“その人らしければそれでいい”という選択肢が増えた時代に変わってきましたね」。

また、近年大きな変わり目を迎えているのが“ラグジュアリー”の捉え方。

「上下格差を背景に富やステイタスを誇示するようなものをラグジュアリーというのは、時代遅れになりつつあります。これからは倫理的であることや、そこに慈愛があるかどうかがラグジュアリーの基準に含まれていきます。そんなことも考慮しながらモノを選んでいけるといいですね」。

お洒落とは、「次を作る」ことを考えながらファッションを選ぶこと

普段着る服を選ぶ際には、自分のスタイルや枠を決め過ぎないようにしているという中野さん。

「似合うとか似合わないとかよりも、“次の新しい自分を引き出してくれるかも”って思える服が好きですね。エストネーション六本木ヒルズ店でお買い物をした際に、スタッフの方が、私が想定していなかった服をすすめてくださったことがあるのですが、その服が私の装いの幅を広げる“運命の一着”になった経験があるんです。そういう接客にはプロフェッショナリズムを感じますし、新しい自分の可能性に気づくきっかけになったことが嬉しくて。自分らしさにこだわって停滞するよりも、場の雰囲気も含めて“次を作る”ことを考えながらファッションを選ぶことが、私にとってのお洒落だと思います」。 

ジャケット/マックスマーラ ¥247,500
ブラウス/ミカコナカムラ ¥154,000
パンツ/エストネーション ¥71,500
靴/セルジオロッシ ¥149,600

ベージュ系のワントーンでまとめたジャケットスタイルに「絶妙なカラーコーディネートが素敵」と中野さん。「すごく“いい気”を纏っているような気がします。これを着て、皇居のあたりとかを散歩するのもいいですね」。