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ラグジュアリーの本質を追及し、 品質にこだわったものづくりによるタイムレスでクリーンなスタイルを提案する ESTNATION。ただ、そのラグジュアリーの定義とはいったいなんなのか。「豪華な」、「贅沢な」という意味だけで表現することが果たして本質なのか。フリープランナーの種市暁さんを水先案内人とし、それぞれが思い描くラグジュアリーを探す旅に出ます。

ARCHIVE

ISSUE 1 鷲頭 直樹
ISSUE 2 靍岡秀明
ISSUE 3 佐々木明
ISSUE 4 佐藤大介
ISSUE 5 前編 近藤 昌
ISSUE 5 後編 近藤 昌
ISSUE 6 藤井かんな
LUXURY OF ESTNATION

Issue 7

真藤舞衣子

発酵を嗜む贅沢な時間

種市さんがジャンルレスに第一線で活躍する方々と今のラグジュアリーについて、語り合う連載企画「LUXURY OF ESTNATION」。第7回となるゲストは発酵にまつわる著書も多数手掛ける料理家の真藤舞衣子さんが登場。真藤さんがレシピ開発などにも携わる合羽橋の料理道具専門店「釜浅商店」にお邪魔して、料理家の方が考えるラグジュアリーについて伺いました。種市さんと旧知の仲ということもあり、思い出話に花を咲かせながらの軽快なトークは読み応え十分です。

PROFILE

真藤舞衣子

発酵研究・料理家、やまなし大使。 京都の禅寺生活、パリ留学を経て、現在に至る。 和、洋、エスニック、パン、スイーツなどジャンルにとらわれない料理が人気。レシピ開発を手がけるほか、テレビやラジオのコメンテーターなど、さまざまな媒体で活躍。新刊「つくりおき発酵野菜のアレンジごはん(主婦と生活社)」「発酵美人になりませう。(宝島社)」が現在発売中。

LUXURY OF ESTNATION ISSUE 7

INTERVIEW

フランスに行くために
京都の寺で
カルチャーを学ぶ

撮影前からお話が盛り上がっていましたが、お付き合いが長いそうですね。

真藤

多分まだ私は10代だったと思う。

種市

かれこれ30年ぐらいになるかな。僕が大学を卒業して就職した時ぐらいに遊び場で知り合ったから。彼女は赤坂にビルがあって、そこが実家。だから、子供の時から地元が東京のど真ん中で、おばあちゃまとお母さんが着物をビシっとお召しになる方々だった。それで言うと江戸っ子でいいのかな?

真藤

そうだね。赤坂も下町だから。暁は当時からあの界隈で目立ってたよね!

種市

本当にど真ん中すぎる場所で育って、若い時から音楽も好きだったからクラブに通っていた。お母さんがすごく正統派な人達だったから、そのカウンターカルチャーかはわからないけど、よく踊って遊んでいたよね。あと、アートとかも好きだった印象。

真藤

アートや美術関係は昔から好きだったね。祖母と母が古美術が好きで幼い頃から観に連れて行かれた影響があるのかも。

種市

そんな感じなんだけど、生まれ育ったところが赤坂だから、どこか品がいいところもある。なかなか面白い存在でネタを当時から持っていた。それこそ、ちょっと面白いモノ買ったから見に来てよって言われて遊びに行ったら、ティピがあって驚いたのを覚えている。面白そうだから買ってみたというモノにしては大きかったし、1年後には飽きたって言って誰かにあげてた。そういうわけわかんないところがあるというか(笑)

真藤

そういうことは多々あるかもしれないね。みんなで楽しいことをするのが好きだから。

種市

当時はインターネットが普及してない時代だったけど、今考えるといろんな人たちと遊べてたよね。はじめ大手のセレクトショップでアルバイトしていて、その頃知り合ったんだけどその後IT企業に入社したけど、辞めてどこかに行ったんだよね?

真藤

京都の大徳寺塔頭。そこで畑とか土木作業もやったり、お茶や精進料理も学んだ。もともとフランスに行きたいと思っていたんだけど、日本の文化の話ができないからと思って1年間住んでいたの。

種市

なるほど。フランスに行くために日本の武器というかカルチャーを知ってから渡仏しようと思ったんだ。

真藤

でも、改めてお寺での経験はすごく大きく残ってる。靴下1足や作務衣にしても穴が空いても自分で直しながら使っていく。そういうことからモノを大事にするって大切だなとなったし、食材を残しちゃいけないってなる。だから、なんでも買って着てすぐに処分するみたいな考え方はなくなった。

種市

なるほどね。

真藤

あと、最初は土も触ったことなかったんだけど、畑仕事の一環でお坊さんの排泄物を汲んで、 貯蔵庫で発酵させて堆肥として撒いてたの。なんでこんなことやらされるんだと本当に思った。ほっかむりして鼻にティッシュ詰めて、泣きながらバケツで運んでね。そういうことを通してできた野菜ってのは本来の味がして感動的だったのを覚えてる。

種市

それはなかなかできる体験じゃないね。

真藤

1年間しっかりと有意義な時間を過ごしたと思う。それから、フランスではリッツ・エスコフィエという学校でお菓子作りの勉強をしていたの。

種市

そこから帰ってきて、「my-an(マイアン)」っていうお店を実家のビルの1階でやってたよね。そこはカフェとサロンみたいな感じでアートギャラリーとしても使っていたり。

真藤

あとは料理教室をやったり、みんなでワイワイ楽しいことをやる場だった。そこを7年ぐらいやって、私は山梨に移住。

種市

移住してから大使みたいなこともやってたよね?

真藤

やまなし大使と5年ぐらい情報番組のコメンテーターもしていた。

種市

そうやって、どんどんいろんなことをやっていきながら最終的に料理家の道に絞られていったんだ。

真藤

料理は元々やっていたのとワインや日本酒が好きだったので、発酵食を追求しはじめたの。もともと祖母が健康オタクだったから、 幼い頃から家の床下に大きいポリバケツがあってそこをぬか床にしていたというのが私のきっかけにもなった。

手間暇をかける時間を
使えることが
今の時代の幸福感だと思う

種市さんの中で、真藤さんはどこかのタイミングでこの連載に出てもらおうという構想はあったのでしょうか?

種市

絶対面白いから、話したいなと思ってました。

逆に真藤さんはオファーをもらった時はどんな印象でしたか?

真藤

普段から余計なことしか言わないから、ヒヤヒヤしながら承諾しました。

一同

(笑)

種市

やっぱり自分も年を取ってきて、時々ジャンクなモノを食べたりしちゃうけど(笑)、その後は身体に良いものを食べ続けて調整したり、食べるモノというか体に入るモノとかは気にするようになった。その料理を作るときに気持ちいいモノがあるといいというか、年々そういうものに対しての興味はある。ただ、これまでなんとなく見た目やノリだけで買っていたから、うまく使いこなせないことが多いんだよね。

真藤

それで言うと「丁寧な暮らし」という言葉が浸透し始めた時から、世間の考え方が変わったと思う。もちろん高価なブランドの洋服を着飾ってみたいなことも変わらずあるけど、違うフェーズでのラグジュアリーっていうのが見出されたのかなと。例えば冬になったら味噌、夏になれば梅干しや梅酒作ったりっていう、その手間暇をかける時間を使うことが今の時代の幸福感だと思う。そういう時にこそ、釜浅商店で紹介したようないいモノを使いたいと思ってほしい。もちろん、お金もかかるけど今の私たちの生活の中にはフィットするはず。

種市

体験することが大事だよね。田舎に行って、宿泊しながら農業のお手伝い体験とか。あとはオーベルジュって言って、レストランと宿泊施設が一緒になっているようなところで、豊かな時間を過ごすとかね。

真藤

その土地で作られたモノを調理して、その場所で食べて泊まれる。これまでなかなか体験できなかったことが身近になってきたと思う。

種市

愛称で呼ばせてもらうけど、まいまいのSNSを見ていると日本のいろんなところで美味しいモノや素材を見て、料理教室してるもんね。俺もサーフィンとかスノーボードで地方に行った時に、その土地で食べるモノに感動することが多い。東京にいると便利だし、有名店で最高級な食材を堪能できるのは素晴らしいことだけど、地方に足を運ぶことも贅沢だし、そういう時間を使うことがラグジュアリーだと思っている。

真藤

東京という交通の便がいいところにいるから、地方に足を運びやすいこともあるかもね。あと、私が旅してるのって東京でお金を使うんじゃなくって、地方に足を運んでその地域に落としてたいなっていうのがあるからなんだよね。それこそ今年の1月に能登のオーベルジュに行く予定だったのが震災で行けなくなっちゃったんだけど、そのお店が金沢で間借りしてやってるから応援しに行ったの。過疎化してる地域などもあるから、そういうとこにどんどん行って盛り上げたいなと思ってる。

発酵食品を食べて、
ちゃんと寝て、
毎日出すってのが大事

その地方に足を運んだ中で出会いと呼べる食材はありましたか?

真藤

それで言うと沼山大根。秋田県横手市で生産されている品種で、いぶりがっこにするとすごく美味しい。あとはこんか漬けと言って、富山の伝統食。ここも震災の影響があったんだけど、仕込みを再開しましたって言っていた。サバやイワシとかを糠漬けにするんだけど、それが本当に美味しくて酒が進む進む(笑)。

種市

食材との出会いはたまたまだったりするの?

真藤

沼山大根は温泉に行った時に教えてもらって、農家さんを紹介してもらったという流れだったから本当にたまたま。あと、もう10年以上通っている滋賀の徳山鮓も出会いだね。ここは琵琶湖の横にある余呉湖で獲れた鮒と地元の米を発酵させた熟鮓を提供するオーベルジュで、発酵の学びが多いから月1回ぐらいは通っている。徳山鮓の大将とは全国発酵食サミットのトークショーなどのイベントでもご一緒させてもらってます。

種市

発酵食は腸活になるんだっけ?

真藤

そう。発酵食はとにかく続けることが1番大事。普段の食生活の中で発酵食品を必ず毎日取り入れていってほしいなっていう思いがある。あとはよく噛むこと。

種市

発酵は時間がかかるもんね。

真藤

味噌やお酢も醤油などの調味料やお漬物も発酵食。暁が言うように、やっぱり結構時間かかるんだよね。

種市

だったらさ、次出す本のタイトルは発酵はラグジュアリーでいいんじゃない。

一同

(笑)

種市

だって贅沢なことじゃないですか。そうやって時間をかけてパーソナルなモノを作ってて、洋服で言うオートクチュールみたいなもんでしょ。そういうアプローチでやった方がいいと思うから、何かYoutubeとかやってみたら?

真藤

実は睡眠研究をしている友人と食べることと寝ることでストレスフリーな生活にするにはどうしたらいいのかなみたいな話がYouTubeでできたらいいねってなってる。

種市

睡眠も絡めるところがトレンド感もあって、面白いじゃん。ただ名前をしっかりと考えた方がいいんじゃない。

真藤

発酵食品を食べて、ちゃんと寝て、毎日出すってのが大事。だから、「食う寝る出す」が一番いいなと思ってる。そうすると本当に薬いらずの免疫力が高い体になって、病気にならない。私自身も、花粉症ではないし、風邪もほぼ引かない。

種市

そのタイトルは完璧だね。実際に、まいまいの髪とかもキレイだもんね。

真藤

私、あえてリンス使ってないからかも。染めてないし、白髪染めもしてない。

種市

それで言うと俺たちは完全にケミカルまみれだな(笑)。さらに日焼けで黒くしとけば大丈夫だろって考え方でやってるから。でも、その「食う寝る出す」って いうのは素晴らしいね。そういうポップアップとか、ESTNATIONで出来たら面白そうだよね。

鷲頭

よさそうですよね。そういうコンテンツはこれまでになかったと思います。

種市

それこそ釜浅さんのセレクトした料理道具を置かせてもらって、まいまいの活動を映像で発信したりするとかね。

鷲頭

今日お邪魔させてもらって思いましたが、釜浅商店さんはすごく反応がありそうですね。

体験してもらって
それがラグジュアリーだと
伝えていきたい

真藤さんはESTNATIONにはどういうイメージをお持ちでしたか?

真藤

行くとうっかり買わされるお店(笑)。それこそ、六本木ヒルズのESTNATIONによく行ってましたよ。ただ、よく大根とかネギとか日常の買い物した後に、気が向いていっちゃうから本当に恥ずかしかった。

種市

ここでも赤坂に住んでた感を出してくるね(笑)。ちなみに釜浅商店さんは仕事でだと思うけど、どういう関係性なの?

真藤

元々はお友達。今はイベントのお手伝いをしたり、釜浅商店の道具を使ってレシピを作ったりしてる。

種市

だから、商品についても詳しいんだね。さっき、お店を案内してもらった時も接客を受けてるようだったし。

真藤

もちろん知らないのもあるけど、普段からよく使ってるから詳しいかも。もともと、 私は鉄のフライパンとか鍋が好きだったから、こういう風に使ったらいいよとか、こうやってお客さんに勧めるといいんじゃないっていうことをよく話してたら、仕事でも関わるようになっていたね。

種市

合羽橋って普段から行く場所じゃないけど、男の人はプロダクトを見るのがやっぱり好き。だから、包丁がずらっと揃ってたりすると興味が湧くし、説明を聞きながらだと余計に欲しくなる。実際にこの後、買い物して帰るんだけどね(笑)。

真藤

それは説明した甲斐があったわ(笑)。

種市

今って、洋服だけじゃなく、色々なモノに興味を持つ時代だと思う。もちろんファッションで気分が上がるっていうのはあるけど、いい包丁を使ってた方が気持ちがいいなとか料理が少しでも美味しくなるとか、生活の水準が上がることはいいことだと思う。

真藤

私も年を重ねるごとに調理道具は質がよくて長く使えるモノを選ぶようになったし、それを大事に使いたい。それは洋服や着物もそうだと思っている。

種市

今後はそういう道具を使うことや、発酵食の魅力を伝えていく場を作っていくことがまいまいの活動の主軸になるのかな?

真藤

そうだね。本来の上流階級におけるラグジュアリーは全部提供される側だと思うけど、それを庶民的に考えると時間の使い方なのかなって思う。その時間をいろんな人に体験してもらって、ラグジュアリーだと伝えていきたい。暁が今日を通して、漬け物でも作ってみようかな思ってもらえたら嬉しいな。

Column

ここでは自身が思う“今”のラグジュアリーにまつわるものを紹介してもらいます。果たして、そのものにはどういった思い入れがあり、どのようにラグジュアリーを表現するのか。そんな逸品たちをお楽しみください。

釜浅の中華せいろ

このせいろは釜浅商店のイベントで使っていた時に自分でも欲しくなって買いました。国産の桧と竹を使い1つ1つ手作業で丁寧に仕上げているので品質もいいし、通常の中華せいろより高さがあり、専門のすのこ網を入れることで2段として使えるので便利。これで野菜を蒸して、その上にライ麦などのハード系のパンを置いたらむっちり美味しく食べられるし、お赤飯も簡単に作ることができます。

つくりおき発酵野菜のアレンジごはん

今、ラグジュアリーの極みだと思うのが発酵野菜。冷蔵庫の余り野菜を日持ちさせるためくらいの感覚で気軽に始められるレシピを集めました。やっぱり時間がかかるんですけど、野菜を漬けてご飯のおかずを作るっていうのが贅沢なので、この本を参考にしてもらい飽きずに楽しみながら腸内環境を整えてくれたらうれしいですね。

祖母から受け継いだお箸

もともとは祖父母の夫婦箸だったモノを、母親と私が引き継いで使っています。象牙と18金で作られていて、もう100年近いモノですが、まだ状態もいい。また、金属の箸は古来に毒味用としても使われていたという伝統もあるんですよ。今となってはなかなか手に入らない素材なので新しいお箸を買うのではなく、これからも大事に使っていきたいです。

Special Thanks
釜浅商店

明治41年(1908年)、初代の熊澤巳之助が浅草は合羽橋で熊澤鋳物店を創業したのがはじまり。後に釜浅商店と屋号を改め、116年という長い歴史の中で培ってきた技術で使い易く、タフで永く使える料理道具を提供。「良い道具には、良い理(ことわり)がある、だからこそ、良い料理人には良いものを。」という信念の下、道具を通じて日本の食文化を豊かにすることを目指し、パリの海外支店もオープン。国内および海外向けのオンラインショップも運営している。

台東区松が谷2-24-1
TEL:03-3841-9355(代表)
営業時間:10:00〜17:30
休:年中無休(年末年始除く)
問い合わせ先: https://kama-asa.co.jp/

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ESTNATION Men's Director

NAOKI WASHIZU

Planner

AKIRA TANEICHI

Photographer

YUMA YOSHITSUGU

Writer

KEI MATSUO (TEENY RANCH)

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